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『うみの音が見える日』(黒田育世、笠井叡) [舞台(コンテンポラリーダンス)]

 昨日(2012年03月27日)は、夫婦で表参道のスパイラルホールに行って、黒田育世さんのソロダンス公演を観てきました。

 2009年に『another BATIK ~バビロンの丘にいく~』、2010年には『カルミナ・ブラーナ』で、黒田育世さんのカンパニー「BATIK」に振り付けて大きな話題となった笠井叡さんが振付・演出を担当。

 上記どちらの作品においてもダンサー達に対するそれなりの“手心”が感じられたのですが、今回踊るのは黒田育世さん一人。もしや手心も手加減もない鬼のような振付をするのではあるまいか、と危ぶんでいたら、まさにその通りというか、加えて情けも容赦もありません。

 古事記の詠唱や、松本じろ氏による呪術的ギター演奏をバックに、神がかったダンスが延々と続きます。その様、まさに神事。その緊迫感というか、この世のものではない感というか、もともと黒田さんは巫女の雰囲気をまとったダンサーですが、それが全開になっています。

 やがて詠唱も音楽もなくなり、しかし休むことなく、裂帛の気合を込めて古事記の神々の名を叫びながら踊る黒田さん。大地を踏み固め、天を仰ぎ、祝詞を唱えながら八百万の神々を産み続ける。舞踏、というより、むしろシャーマニズム儀式。

 このあたりになると気力体力とうに限界を超え、自意識とんでるのではないかとすら思われるのですが、というかむしろ観客がそうなっちゃうのですが、全力運動しながら息も切らさず正確に発声し、命を振り絞る勢いで日本神話を再生する、そのあまりにも力強い、文字通り神話的なダンスがいつまでも止まらず、しかも動きの切れが落ちない。

 心底びびりました。

 小休止の後、巫女の白い衣装から青い海のドレスに着替えて再登場した黒田さん、さすがにこれ以上踊るのは無理だろうと思っていたら、何と、ある意味そこからが本番。メンデルスゾーン『フィンガルの洞窟』に乗せて、荒々しくも悲痛な海のダンスを踊るのです。

 大震災、津波、といった単語が脳裏に浮かびますが、ダンスに圧倒されて雑念は消えます。放たれる気迫、流れる身体の動き、会場を海流に巻き込むような圧倒的パワー。最後に崩れ落ちるように床に倒れ泣きむせぶシーンでは、ここに至るまでの時間が積み重なって、ぶわっと、感動が込み上げてきます。

 鎮魂のための宗教儀式に参加したような気分ですが、改めて黒田さんのダンスの凄さにしびれました。といいつつ、一夜明けると、黒田さんにセーラー服を着せてノリノリで一緒に踊っていた笠井叡さんの後ろ姿ばかりが思い出されるのはなぜでしょうか。

[キャスト]

演出・構成・振付: 笠井叡
出演: 黒田育世
朗読: 尾崎若菜、川上晶子、山口奈緒子
音楽: 松本じろ


タグ:黒田育世
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