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『バイ貝』(町田康) [読書(小説・詩)]

シリーズ“町田康を読む!”第42回。

 町田康の小説と随筆を出版順に読んでゆくシリーズ。今回は、日々の憂さを晴らそうとしてみみっちく散財しては失敗する様を面白おかしく書いた自虐ユーモア長篇。単行本(双葉社)出版は、2012年3月です。

 「銭を遣っていろんな物をバイ貝するのは楽しい。しかし、それをすると以前も申し上げたように、その分の銭を稼ぐ、という鬱の溜まることをしなければならず、いわば諸刃の剣」(単行本p.136)

 仕事をすればしたで、さぼればさぼったで、いずれにせよ日々たまってゆく鬱。憂さを晴らして気分よく生きてゆくために、著者はゆく、近所のホームセンターに。銭を遣っていろんな物をバイ貝して気分爽快になるのだ。ところが、いくら鎌や宝くじや中華鍋やデジカメを買っても、なぜか鬱はますます増え、所持金は減るばかり。

 現代の文豪が資本主義社会の矛盾を鋭く追求した社会派小説。というか、まあ爆笑自虐エッセイ『テースト・オブ・苦虫』シリーズの長篇版というべき一冊。

 「消費による快楽」を追求する著者は、しかしいかにもみみっちい散財しか出来ません。例えば、3045円の鎌と280円の鎌のどらちを買うか。散々悩み抜いた挙げ句に280円の方を買って、後で激しく後悔してまた鬱が溜まる、といった具合。中村うさぎ氏の後悔とはスケールが3、4桁違う。

 文章は軽妙で思わず笑いが込み上げてきます。大真面目な口調で愚かなことをくどくど論じては自爆するなど、笑かしのテクニックは『苦虫』シリーズと同じながら、さらに磨きがかかっており、たとえ最初の一撃をかわしたとしても、すぐに二の矢、三の矢が続き、結局は笑いのツボに命中して、うぷぷぷ、と失笑するはめに。

 というわけで、「気負い込んで買物に出かけたはいいが、持ち前の貧乏性が災いしてつい安物を購入してしまい、帰宅してから激しく後悔。しかし自分は正しかったのだ、と強弁するうちにどんどん自虐的になって落ち込む」というのをひたすら繰り返し、文章の力で笑わせる小説。『テースト・オブ・苦虫』シリーズの連載が終わって寂しい思いをしている方にお勧めします。


タグ:町田康
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