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『SFマガジン2012年3月号  英米SF受賞作特集』 [読書(SF)]

 SFマガジンの2012年3月号は、英米SF受賞作特集ということで、ヒューゴー賞やネビュラ賞などSF賞に選ばれた英米作家の短篇を四篇掲載してくれました。

 シオドア・スタージョン記念賞を受賞した『雲海のスルタン』(ジェフリー・A・ランディス)は、金星の大気に浮かぶ浮遊都市群に招かれた天才女性科学者と助手の冒険を描きます。

 金星雲海の支配者から求婚される女性科学者、不可解な事故に巻き込まれて殺されそうになる助手。空賊都市のならず者たちと手を結んだ助手は、密かに進められている恐るべき陰謀(と憧れの上司の結婚)を阻止すべく、単身で空中宮殿に乗り込んでゆく。

 往年の冒険活劇(E.R.バローズの『金星シリーズ』だなあ)を彷彿とさせる楽しい作品。さすが『火星縦断』や『マン・イン・ザ・ミラー』(SFマガジン2010年3月号掲載)の作者だけあって、雲海を漂う浮遊都市の印象的な情景、異世界の文化風俗、そして壮大なハードSFアイデアが見事に調和していて、感心させられます。

 ヒューゴー賞とアシモフ誌読者賞を受賞した『火星の皇帝』(アレン・M・スティール)は、火星基地で働く若者が、故郷で起きた悲劇のために抑うつ状態になり自殺寸前まで追い詰められ、現実逃避のために、火星を舞台とした古典SFを読み耽るという話。

 やがて自分がいるのが現実の火星ではなくE.R.バローズやブラッドベリの「火星」だという妄想に陥った彼は、「自分は火星帝国の皇帝である」と主張し始める。最初は気味悪がっていた仲間たちもだんだん慣れてきて、彼はアメリカ合衆国皇帝ノートン1世のような人気者になってゆく。

 しょせん現実逃避の読み物、などと軽んじられムカついてきたSFファン達のうっぷんを晴らしてくれる「SFが人を救う話」あるいは「SFが現実世界を変える話」は、常に人気がありますね。

 アナログ誌読者賞を受賞した『アウトバウンド』(ブラッド・R・トージャーセン)は、最終戦争で破壊された地球から辛くも脱出した少年の物語。行く手には自動戦闘機械がうようよしており、生き延びた人々も次々と殺されてゆく。太陽系の外辺部、アウトバウンドを目指す孤独な逃避行。その果てに待つものは・・・。

 感動的な話ではあるのですが、何というか、あまりに定型すぎて印象が薄いのが残念です。

 ネビュラ賞を受賞した『女王の窓辺にて赤き花を摘みし乙女〈前篇〉』(レイチェル・スワースキー)は、謀略によって殺された女魔術師の魂が魔法に囚われ、ときどき「召還」されては助言を求められるという話。

 長い歳月を隔てて、王国に危機が訪れたときだけ“よりしろ”の身体を借りて降ろされる。まるでハリ・セルダンの霊(あれはただの記録映像か)みたいな使われ方をされ、ムカつくヒロイン。腹いせみたいに、女王を暗殺させたり、生贄を要求したり、赤子の殲滅を助言したり、そうこうしているうちに王国は滅び、世代は変わり、時代もどんどん流れてゆき・・・。

 前篇を読んだ限りでは、徹底した女性優位社会という背景設定も面白く、話の疾走感(「呼び出される」たびにどんどん時代が進んでゆく)も快感で、後篇に大いに期待したいと思います。

 また、先月号に前篇が掲載された『ウェイプスウィード』(瀬尾つかさ)の後篇も掲載されました。

 海面上昇により陸地の大半が水没した未来の地球を舞台に、外惑星コロニーからやってきた研究者である若者と、島の巫女として科学知識を持っている少女が出会い、協力してウェイプスウィードと呼ばれる巨大な海藻集合体を調査する話。

 ウェイプスウィードの謎を解く後篇ですが、何だか駆け足で種明かしするだけで終わっちゃった感が。

[掲載作]

『雲海のスルタン』(ジェフリー・A・ランディス)
『火星の皇帝』(アレン・M・スティール)
『アウトバウンド』(ブラッド・R・トージャーセン)
『女王の窓辺にて赤き花を摘みし乙女〈前篇〉』(レイチェル・スワースキー)
『ウェイプスウィード〈後篇〉』(瀬尾つかさ)


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