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『SFマガジン2012年2月号  日本作家特集』(宮内悠介、倉数茂) [読書(SF)]

 SFマガジンの2012年2月号は、日本作家特集ということで、新鋭作家の短篇を5篇掲載してくれました。

 まず最初の『ヨハネスブルグの天使たち』(宮内悠介)。泥沼化するアフリカ内戦を背景に、どん底の生活から這い上がろうとする一人の若者の姿をえがいた作品です。また伊藤計劃の後追いかと思いきや、これが予想を上回る傑作。

 「落下と破壊をひたすら繰り返し続ける少女型アンドロイドが、毎日毎日、降ってくる」というシュールな光景が、果てしない民族紛争と重なってゆき、やがて前代未聞のエキソダスへとつながってゆく、その見事な構成には唸らされます。SFにしか出来ないやり方で現実に切り込んでゆこうとする作品。

 この作者の作品は、他には『盤上の夜』(『原色の想像力』収録)と『スペース金融道』(『NOVA5』収録)しか読んだことがないのですが、どれも方向性から雰囲気までまるで違う作品で、その引き出しの多さには驚かされます。今後どんな作品を書いてくれるのか、大いに期待したいと思います。

 『小さな僕の革命』(十文字青)は、格差が固定された近未来の日本が舞台。将来に希望を持てない若者が、このクソみたいな世の中なんてぶっ壊してやる、と息巻いて、ネットを利用した同時多発テロを企む話。

 同じ話(言い切るなよ)である『ヨハネスブルグの天使たち』(宮内悠介)の後に置かれたのが不運というか、どうしても読み比べてしまい、そのしょぼさにがっくり。「希望は、戦争。」(赤木智弘)から五年、ついに「希望は、ネットの“祭り”」しかないところまで来たかと思うと、さらにもの悲しく。

 『不思議の日のルーシー』(片理誠)は、ある小さな田舎町を舞台とした、すこし・ふしぎ系ボーイ・ミーツ・ガールもの。ある暑い夏の日、ルーシーと名乗る少女に出会った少年は、彼女と一緒に猫を探すはめになる。ルーシーは隣の家の娘だというし、町の人も彼女をよく知っているようだが、なぜか少年はルーシーに全く見覚えがない。はたして彼女は何者なのだろうか。

 トワイライトゾーン風というか、海外の古いSF短篇にありそうな話で、悪くはないのですが、とりたてていうほどのこともなく。『エンドレス・ガーデン』を読んだときも感じたのですが、その生真面目な作風には好感が持てるものの、どうも好みに合わないのです。

 『真夜中のバベル』(倉数茂)は、天才的な言語能力を持つ少年と幼なじみの少女が逃避行を繰り広げる物語。どんな言語でもその文法構造を一瞬で把握し極めて短時間に完璧に習得してしまうという驚異の能力を持つ少年シロウ。ある夏の日、シロウが謎の男たちに拉致されそうになったのを目撃した幼なじみの少女は、彼を救い出し一緒に逃げることになる。逃避行の果てに二人を待っている運命とは。

 シロウが狙われる理由、彼が持っている貴重なものとは何か、というのは、タイトルが露骨に暗示している通りなのですぐに察しがつきますが、この作品のキモはそこではありません。二人が体験する様々な出来事が一つ一つ積み重ねられ、ラスト一行で読者をぼろぼろに泣かせる、というのが狙い。それは見事に成功しています。というか、泣いた。泣かされたよ。

 細やかな情景描写が実に巧みで、昨年デビューしたばかりの新人作家が書いた作品とは思えません。先が楽しみ、というか、これからもSFを書いてくれるかどうか不安になります。とりあえず長篇を待ちます。解説には「2010年には、弊社よりSF長篇を刊行予定」とありますが、これ2012年の誤植ですよね?

 最後に置かれた『ウェイプスウィード(前篇)』(瀬尾つかさ)は、中篇作品の分割掲載で、今回はとりあえず前篇のみ。

 海面上昇により陸地の大半が水没した未来の地球を舞台に、外惑星コロニーからやってきた研究者である若者と、島の巫女として科学知識を持っている少女の出会いが描かれます。二人が協力して調査するのは、ウェイプスウィードと呼ばれる巨大な海藻集合体。海洋生態系に大きな影響を与えているウェイプスウィードの秘密とは。

 と、ここで前篇が終わっていて、いやもう先が気になります。感想は後篇を読んでから書くとして、とりあえず『華竜の宮』(上田早夕里)に引き続き、海洋SFブームが来ることを期待したい。

 というわけで、個人的には、話の面白さとSF的アイデアで宮内悠介、筆力と作品の完成度で倉数茂、この二人が大いに気に入りました。次々とお気に入り作家が出てきて、とても嬉しい。ただ5篇を通読して感じたことですが、この歳になると、「少年と少女」の話ばかり読まされるのはけっこうきつい。

[掲載作]

『ヨハネスブルグの天使たち』(宮内悠介)
『小さな僕の革命』(十文字青)
『不思議の日のルーシー』(片理誠)
『真夜中のバベル』(倉数茂)
『ウェイプスウィード(前篇)』(瀬尾つかさ)


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