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『鳥はいまどこを飛ぶか  山野浩一傑作選I』(山野浩一) [読書(SF)]

 日本SF界におけるニューウェーブ運動の最前線で活躍した伝説的作家の傑作選、その第一弾です。表題作ほか『X電車で行こう』など、異世界・内宇宙テーマの作品を収録。文庫版(東京創元社)出版は2011年10月です。

 山野浩一といっても、バベルの塔で三つのしもべに命令している少年ではなく、伝説的な「季刊NW-SF」を創刊し、60年代から70年代にかけて和製ニューウェーブ運動の旗手として活躍した作家です。

 若い頃、SFアンソロジーで『X電車で行こう』や『メシメリ街道』を読んで、何しろそれまで宇宙船だのタイムマシンだの出てくるような素朴SFしか読んでなかったもので、こんなSFもアリなんだーっ、そのかっこ良さにシビれたのも、今となっては懐かしい思い出。

 しかしながら、ニューウェーブ運動にいまひとつ興味が持てなかったこともあって、作品集に手を出すこともなく、何となく上記の二作以外は読まないまま今日に至ります。

 そういうわけで、半世紀遅れではじめて読んだ山野浩一作品集ですが、うん、けっこう好み。この不条理感はクセになります。

 本書に収録された作品は、そのほとんどが「うだつの上がらない会社員としてのぱっとしない生活にうんざりしている語り手が、ふとしたはずみで異世界(内宇宙の具現化だったり、不条理な組織だったり、あるいは単に社会からのドロップアウトの比喩だったり)に足を踏み入れてしまい、そのまま戻って来れない、あるいは心ならずも戻ってきてしまって喪失感に立ちすくむ」というようなプロットです。ああ、60年代だなあ。

 個人的に気に入った作品を掲載順にいくつか挙げると、まずは表題作『鳥はいまどこを飛ぶか』。パラレルワールドを飛ぶ渡り鳥、というイメージが印象的な作品です。

 冒頭に置かれた「この小説は、最初の二節と最終の二節以外のaからlの配列を任意に変更して読んで下さって結構です」という有名な一文からは、ウリポめいた実験小説が連想されますが、実はパラレルワールドというものを忠実に表現するための手法なんですね。ホシヅルがさり気なく登場することでも知られています。

 『赤い貨物列車』は、夜行列車の中で殺人行為が繰り返されるのを、逃げるべきかどうか迷いながら傍観する話。夜行列車に乗っているときの一種異様な非現実感がよく表れています。

 『X電車で行こう』は著者の代表作の一つ。目に見えない幽霊列車「X電車」が登場します。鉄道マニアである語り手は、会社を止めてX電車の追跡にのめり込みますが、まるでそれと呼応するかのように語り手の予想通りの進路を辿るX電車。だが、次第にX電車は狂暴化してゆき、多くの犠牲者が出るに至って・・・。社会生活になじめず、ひたすら趣味に打ち込んだ経験のある読者なら、身につまされるであろう物語。

 ただ、改めて読んでみると、その面白さは、ある種の怪獣映画のパターン(怪獣と心が通じていると思い込んだ登場人物が、自分の社会的疎外感から怪獣に肩入れしているうちに、というような)に沿ったプロットから生じていることに気づきます。進路や出現ポイントの予測とか、自衛隊の迎撃シーンもありますし。内宇宙テーマ、とか思っていたけど、実はこれ怪獣モノじゃないですかね。

 『カルブ爆撃隊』は、いきなり不当逮捕され、どことも知れぬ監獄に入れられた男の話。『プリズナーNo.6』めいた監獄では、なぜか収容されているメンバーそれぞれの記憶(ここが精神病院なのか職業訓練所なのか軍の施設なのかといった現実認識も含めて)が食い違っており、しかも全員が自分たちは「カルブ爆撃隊」に所属しており、訳がわからないまま戦争に加担させられている、という確信を持っていた。

 全編を覆う不条理感が素晴らしい作品。ただ、アンブローズ・ビアス風のラストはちょっとどうかと思いますが。

 『首狩り』は、盗んだスーツケースを開けたら、知らない男の生首が入っていた、しかもその生首は生きていて、タバコは吸うわ、電話はかけるわ、ついには語り手に報酬は払うから世話をしろと言い出して、というインパクトある導入部で始まる物語。やがて「優秀な人間を見つけては首狩りしている謎の組織」の存在が明らかになり、語り手もそのメンバーとして活動するようになるが・・・。

 「ヘッドハンティング」とか「首切り」といった会社用語をそのまま現実として書いてしまった作品。地下室に沢山の生首が並んでいる、という猟奇ホラー的な光景が、実は、生首はみんなでテレビの野球中継を見ており、そのくつろいだ様子からは、もともと首から下は不要な人生を送っていたことが明らか、みたいな、笑うべきか否か微妙に困るシーンで。会社ビルの地下の喫茶店でよく見かけた昭和風景。

 巻末の『霧の中の人々』は、登山中、霧に巻かれて遭難しかけた語り手が、やがて謎めいた非現実的な都市に迷い込む話。そこを脱出するためには「不在証明(アリバイ)」を手に入れなければならないのだが・・・。

 山登りの体験を描いたリアリズム小説かと思わせておいて、どんどん不条理な方へ転がってゆく感じがたまりません。霧に巻かれた山中の風景、不可解な都市の光景、ともに描写が印象的で素晴らしい。いつまでも読んでいたくなります。

 最後に著者自身による「あとがき」が付いており、これがまた凄い。各作品について「アイデアだけの平凡な作品」、「不純な動機で書かれた作品」、「何とも変なことを考える作者ですな」などと完全に他人目線で評しており、参考になります。その数で難易度を示すトウガラシマーク付き。

 というわけで、私のように「ニューウェーブSFって何か気に入らなかったのであまり読んでない」という方も、安部公房やカフカの作品が好きな方なら、ハマる可能性は高いと思います。第II巻も読んでみようと思いました。

[収録作]

『鳥はいまどこを飛ぶか』
『消えた街』
『赤い貨物列車』
『X電車で行こう』
『マインド・ウインド』
『城』
『カルブ爆撃隊』
『首狩り』
『虹の彼女』
『霧の中の人々』


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