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『無間道』(星野智幸) [読書(小説・詩)]

 シリーズ“星野智幸を読む!”、第13回。

 激増する自殺者、格差の制度化、いじめ文化。現代の日本が抱えている様々な社会問題をグロテスクに拡大して読者に突きつける衝撃的作品。生きていることの意義も実感も得ることの出来ない私たちの姿を容赦なく描き出し、後に書かれる『俺俺』へとつながってゆきます。単行本(集英社)出版は2007年11月。

 『無間道』、『煉獄ロック』、『切腹』という三つの中篇から構成された長篇小説です。それぞれの中篇は基本的に独立していますが、微妙なつながりを保ち、全体として果てしなく無限循環しているような、いつまでも終わることのない苦しみの中にいるような、そんな印象を与えます。なおタイトルから香港ノワール映画を連想する方も多いでしょうが、直接的な関係はありません。

 『無間道』は、自殺者が蔓延した、というよりマジョリティになった(自殺しない者は、わがまま、自分勝手、何をされても自己責任、などと非難される)社会を描きます。どこにでも遺体が転がっており、他人が自死したり道連れ無理心中に巻き込まれたりする風景は当たり前、みんな見ないふりして忙しげに通り過ぎるだけ。

 『煉獄ロック』は、徹底的に制度化された階級社会を描きます。ほんのささいなことで下流に「転落」して消えてしまう。誰もが自分がそうなる可能性に怯え、消えた人のことは「なかったこと」にしながら、目をつけられないよう空気を読む。そんな世の中から逃走をはかった若い恋人たちが、下流社会の悲惨な現実を目の当たりにします。

 『切腹』は、学校における「いじめ」を描きます。ちょっとしたきっかけでいじめる側といじめられる側が入れ替わり、リストカットが強要される空気。誰もが「いじめる側に立っている」という束の間の安心感を維持するためにだけ登校するなか、自分の意志で割腹自殺しようと頑張る主人公。

 気がめいる暗い話ばかりですが、どの話も絵空事には感じられず、むしろ今の日本社会の様子が建前抜きに露骨に書かれている小説だという気がします。ここからさらに社会性を喪失し、他者というものを実感できなくなった『俺俺』の心象風景までは遠くありません。

 というわけで、最初に読んで衝撃を受け、この著者の全著作を読破しようと決意するきっかけになった『俺俺』のすぐ手前まで、ようやく到達しました。あと一冊で追いついてしまうのかと思うと、寂しい気分になります。


タグ:星野智幸
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