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『GF ガールズファイト』(久保寺健彦) [読書(小説・詩)]

 マラソン、フィギュアスケート、公道レース、いじめ。退くに退けない状況に追い込まれ、人生を賭けた闘いに挑む女性を主人公とした短篇集。単行本(双葉社)出版は2011年7月です。

 事故で父親を失ったスケート少女が、新たなパートナーを得てペア競技に挑む『銀盤がとけるほど』。

 敗戦後、満州引き揚げまでの過酷な日々を地下室に隠れて過ごしていた少女が、大切なものを取り戻すためにたった一人で外へ出る『半地下の少女』。

 バイカーとして女性として意地をかけて公道レースに挑む『ペガサスの翼』。下級生を守るため級友たちのいじめに立ち向かう『足して七年生』。

 様々な事情で闘う女性、というテーマの短篇が集められていますが、個人的に最も思い入れが強いのが、凋落した元アイドルがマラソンイベントに出場する『キャッチライト』です。

 他の作品では10代の少女が主人公となりますが、本作の主人公は「10代の頃は超人気アイドルだったが、今や30歳の売れないタレント」という、もうぎりぎりというか、マジで後がない。その闘いも、他の作品のようなきれいごとではすみません。

 彼女は芸能界復帰を目指してマラソンイベントに参加します。狙いは、トップを走っている限り、テレビに映り続けることが出来ること。そこで捨て身のアピールで売り込みをかける。なりふり構わない。嘲笑されようが、罵倒されようが、主役としてキャッチライトを浴びてやる。

 客観的に見れば、人気凋落して忘れられた元アイドルのみっともない悪あがきに過ぎないのですが、読んでいくうちにヒロインの意地に共感し、その孤独で過酷で、しかも馬鹿馬鹿しい奮闘を応援してしまうわけです。どっか方向を間違えている情熱。哀しい滑稽さと熱血っぷりが見事にキマっていて、大好き。

 本作は『短篇ベストコレクション 現代の小説2009』(日本文藝家協会)に収録されています。私が初めて読んだ久保寺健彦さんの作品でした。これが気に入ったので、それから久保寺健彦さんの著作を全部読破することになったという、個人的に思い出の作品であります。今読み直してみても、体温あがりますね。

 ただ、『キャッチライト』に比べると、本書に収録された他の作品はいまひとつに感じられました。たぶん私は、10代の女の子が頑張る話が好きではないのでしょう。

 むしろ、40代主婦が体育祭のリレーに挑戦するはめになる話とか、60代高齢者が命懸けで熊に立ち向かう話とか、前作『オープン・セサミ』に収められた短篇の方が熱血度が高くて好きです。年甲斐もなくマジになって頑張ってしまう大人の熱血、これが個人的ツボのようです。

[収録作]

『キャッチライト』
『銀盤がとけるほど』
『半地下の少女』
『ペガサスの翼』
『足して七年生』


タグ:久保寺健彦
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