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『シッダールタ』(プレルジョカージュ)、『リフラクション』(アロンゾ・キング)、『グノーシス』(アクラム・カーン、ガウリ・シャルマ・トリパティ)、『ロアラトリオ』(マース・カニングハム) [映像(コンテンポラリーダンス)]

 七月のNHK BS プレミアムシアターは、「ダンス特集」ということで、毎週コンテンポラリーダンス公演映像をがんがん放映してくれます。めでたい。

 まずは7月2日の23時30分から翌日2時55分まで、アンジュラン・プレルジョカージュ振付『シッダールタ』と、モンペリエ・ダンス・フェスティバル2010から三作品を放映してくれました。録画しておいて数日がかりでようやく観たのですが、これがもうボリュームたっぷり。

 まずは、アンジュラン・プレルジョカージュがパリ・オペラ座のために振り付けた『シッダールタ』。

 仏教の開祖たるゴータマ・シッダールタ王子の生涯をテーマにした作品で、王子をニコラ・ル・リッシュ、悟りの精をオーレリ・デュポンが踊ります。2010年4月、パリ・オペラ座バスチーユで収録された映像です。

 「釈迦が修行して悟りをひらく」というストーリーをいったいどうやってダンスで表現するのか。そもそも身体表現で「悟り」を表現できるものなのか。興味津々で観始めました。

 ル・リッシュが踊る野性的な王子。これが、ぎんぎんの衣装で舞台に登場するたびにエレキギターぎゅんぎゅん鳴り響き、この方、どちらのジーザスクライストスーパースターですか。

 そこにデュポンが踊るサトリちゃん(仮名)が、手下の美女たちを引き連れて現れてですね、露出たっぷりの衣装をひらひらさせたり。王子がえいやっと捕まえようとするものの、するりするりと逃げ回って。ついに追い詰めたと思ったら、ワイヤーワークで宙を舞って、ほほほほ、私に触れたければもっと修行を積むことね、と言い残して飛んで行ってしまうわけです。悔しがる王子、よーし、さらなる修行だ!

 仏教の悟りって、そういうものだったのか。

 まあフランスの変態が振り付けたコンテンポラリーダンス作品にそういう野暮なツッコミしてもしかたないわけですが、肝心のダンスがこう、どうにも退屈なんです。あ、これはいいな、と思うシーンがないわけではないのですが、すぐに飽きてしまう。かろうじて、ル・リッシュとデュポンの最後のパ・ド・ドゥには感動しましたけど。

 個人的な相性の問題なんでしょうが、プレルジョカージュの作品はどうもその面白さが分かりません。以前に観た『ル・パルク』も退屈だったし、来日公演で観た『Les 4 saisons...(四季)』にもがっかりしました。

 素晴らしいのはむしろ現代美術家クロード・レヴェックによる大道具の数々。巨大な振り子がぶら下がって揺れる、巨大な貨物列車みたいなのがぶら下がって揺れる、巨大な家がぶら下がって揺れる。何だか巨大なものをぶら下げて揺らすのがよほどお好きなんでしょうが、その造形や照明の当て具合は絶妙で、おおお、感心しました。

 次は、「モンペリエ・ダンス・フェスティバル2010」の公演映像。最初がアロンゾ・キング振付『リフラクション』。

 これはもう最高でした。コンテンポラリーダンスのかっこ良さを凝縮したようなシビれ具合。

 大道具は何もなし、照明だけで構成された無機的でシンプルな舞台空間を、ダンサーたちの鍛え上げられた精悍な肉体が躍動し、目を見張る新鮮な動きが次から次へと炸裂。ソロ良し、デュオ良し、群舞良し。長い手足が目まぐるしく動き、交差し、旋回し、跳躍する。観ているだけで、腹の底から、こう、うおおおおっ、何か込み上げてきます。

 一瞬たりとも気を抜けない高密度の作品で、最初から最後まで掘削機が岩盤をぶち抜くような勢いで突っ走ります。初めてエドゥアール・ロック振付作品を観て度肝を抜かれたときのような興奮を覚えました。お恥ずかしいことにアロンゾ・キングという振付家は全く知らなかったのですが、とりあえず作品映像が市販されてないか確認してみることにします。

 次はアクラム・カーン振付『グノーシス』。和太鼓集団「鼓童」の砂畑好江さんとアクラム・カーンが共演します。

 砂畑好江さんが白い杖を振り回し(おそらく盲目の女サムライといったところ)、アクラム・カーンはインド古典舞踊の型で旋回。二人の殺陣がクールで、この緊張感がたまらない。コンテンポラリーダンス作品としての出来はよく分かりませんが、ぴりぴりと闇を切り裂く二人の鋭い動きには感動させられます。

 なお、先日観た『ミュージック・フォー・ジャパン PLAY&PRAY』(2011年05月02日の日記参照)におけるアクラム・カーンの演目『Nameless』と同じ動き(例えば両手の指を組んで波のように激しく動かす)がいくつかあったように感じられました。

 そして最後は、マース・カニングハム振付『ロアラトリオ』。マーサ・グレアムの弟子にしてコンテンポラリーダンスの新たな地平を切り拓いた振付家、そういえば前述のプレルジョカージュの師匠の一人だったりもする、カニングハムの歴史的作品の再演です。

 不協和音に癇に触る人の声(例えば赤子の泣き声)をかぶせた音楽が鳴り響くなか、音楽とは全く関係なく、個々のダンサーたちがてんでばらばらに動きます。まるで各人が勝手に練習しているかのように統一感がなく、ときどき動きが組み合わさったりユニゾンしたりするのも偶発的に感じられます。始まるともなく始まって、終わるともなく終わるダンス。

 正直言って途中で観るのが嫌になるほど退屈でつまらないわけです。そんなことを口にすると、えらい舞踏評論家の方々がわらわら駆けつけてきて、カニングハムが何をやろうとしたのか、「意味をはぎ取られたダンス」について、その歴史的意義と後世に与えた影響、などについて暑苦しく語ってきそうな気がしますが。

 カニングハムについては、『ダンス・バイブル』(乗越たかお)に詳しい解説が載っていますので、そちらをご覧ください(2010年12月14日の日記参照)。個人的には、コンテンポラリーダンの歴史には心から敬意を払いたいのですが、でもカニングハム作品はもう観なくていいや、と思う。

 というわけで、歴史的作品から最新作まで、欧米から東洋まで、バラエティに富んだコンテンポラリーダンス特番でした。このボリュームを毎週放映するのかと思うと嬉しいやら疲れるやら。次の放送(7月9日 午後11時30分~午前3時45分)はピナ・バウシュだそうで、期待しましょう。

『シッダールタ』

振付: アンジュラン・プレルジョカージュ
出演: ニコラ・ル・リッシュ、オーレリ・デュポン、パリ・オペラ座バレエ団
収録: 2010年4月、パリ・オペラ座バスチーユ

『リフラクション』

振付: アロンゾ・キング 
音楽: ジェイソン・モラン 
出演: アロンゾ・キング・ラインズ・バレエ団
収録: 2010年6月、7月(モンペリエ・ダンス・フェスティバル2010)

『グノーシス』

振付: アクラム・カーン、ガウリ・シャルマ・トリパティ
出演: アクラム・カーン、砂畑好江(鼓童)
収録: 2010年6月、7月(モンペリエ・ダンス・フェスティバル2010)

『ロアラトリオ』

振付: マース・カニングハム
音楽: ジョン・ケージ
出演: マース・カニングハム舞踊団


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