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『君がいない夜のごはん』(穂村弘) [読書(随筆)]

 「ところてんは箸一本で食べるもの」、「牛乳のなかで苺を潰すための専用スプーンがあった」、「ブロッコリーって緑色のカリフラワーじゃないか」、「生ハムメロンは分離して食べちゃ駄目ですか」、「おはぎは甘いおにぎりじゃない」。食にまつわる小学生的大問題に歌人が挑む。料理雑誌に連載された失笑エッセイ。単行本(NHK出版)出版は2011年5月。

 生活能力の低さで稼いでいる歌人、とも云われる穂村弘さんの最新エッセイ集です。今回のテーマは食。もちろんグルメエッセイ、だとか、世界の美食巡り、といった随筆にならないのは当然のこと。

 「ナポリタンとミートソース、その二種類のスパゲティを食べ続けて我々は何十年も平和に暮らしてきたのだ。ところが或る日、カルボナーラとかボンゴレなどというものたちが現れた。それらはパスタという食べ物だという。実際にみて驚いた。こいつらスパゲティと瓜二つじゃないか」(単行本p.18)

 頭を抱えつつも必死に覚える作者。追い打ちをかけるように、アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノといったミドルネーム族、ラヴィオリとか何とかいうショートパスタ族が現れるに至って、ついに彼は叫ぶ。「私が絶対的な権力者だったら、君らは全員マカロニだ」(単行本p.19)

 ミルク・コーヒーとカフェ・オ・レとカフェ・ラ・テとカフェ・クレームの違いが分からない作者。お皿は裏面も洗う必要があるということを知らなかった作者。自分が好きなものを女友達から「ださー」と評されて恐怖に震える作者。おはぎを食べるときに「おはぎ、おはぎ」と唱えて気を引き締めておかないと、うっかり「甘いおにぎり」とか思って気持ちが悪くなってしまう作者。

 あえて服を着て文庫本を持っておしっこを我慢しつつ体重計に乗り、「本当の私はこんなに重くないのだ」(単行本p.84)と断じることで傷つかないようにする作者。アイドルというジャンルについて「沢山の女の子が入れ替わり立ち替わり踊り続ける集団があるような気がする」(単行本p.174)ということしか知らない作者。

 こんな作者ですが、何といっても料理雑誌に連載されたエッセイですから、食の自慢話も出てきます。牛乳のなかで苺を丁寧に潰してゆく(そのための専用スプーンまであった)、グレープフルーツの切断面に砂糖をかけてスプーンですくって食べる、ところてんを箸一本で食べる(家族も親戚もみんなそうして食べていたのだそうです)、そして麦茶に砂糖を入れて飲む。

 料理雑誌の読者がどのような感想を抱いたのかは分かりませんが、個人的には大いに笑わせて頂きました。

 なお、個人的に最もインパクトを感じたのは、ある女性作家のエピソード。食事のとき、彼女は「肉が好きなんです」といって前菜もスープも断り、ひたすらメインディッシュに備えていたそうです。「牛より豚が、肉って感じがして好きなんです」といいながら微笑む彼女。「チキンは」と尋ねたところ、返ってきた答えは「あれは魚です」。

 肉食系女子ってやっぱりいるんだ。


タグ:穂村弘
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