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『ファンタジスタ』(星野智幸) [読書(小説・詩)]

 シリーズ“星野智幸を読む!”、その第6回。今回は、野間文芸新人賞を受賞した短篇集を読んでみました。単行本出版は2003年3月、私が読んだ文庫版(集英社)は2006年4月に出版されています。

 グロテスクで幻想的、極めて非現実的なのにどこかしら触覚に訴えてくるような生々しいリアリティ、そして何度か夢で見聞きしたことがあるような既視感。虚構の力を駆使して現実の政治問題にひそむ不条理さをえぐり出すような作品集です。

 小学校で起きた不可解な集団自殺事件、森で暮らすホームレスたち、そしてドミニカ移民問題、これらを妄想によってつなげてみせる『砂の惑星』。「棄民が世は/千代に八千代に」という歌のもと、わが国の棄民政策は今も続いています。

 フットボール(サッカー)の国民的スター選手がわが国の(事実上)初代大統領に選ばれるという『ファンタジスタ』。スポーツが生み出す熱狂の共有や連帯感に対し、共鳴する気持ちと共に同調圧力を感じ、皮膚感覚レベルで嫌悪感を抱く主人公。しかし政治に「強いリーダーシップ」や「熱い感動」を待望する国民の声は圧倒的だった。

 特定チームや選手に対する盲目的な支持、サポータの一体感など、フットボールに重ねてファシズム的「気分」を描出してみせた作品です。

 そして最後の『ハイウェイ・スター』は、ちんぴらコンビが盗んだ車でハイウェイを暴走するありがちな無軌道青春もの、と思って読んでいると、幻想の労働現場にいきなり放り込まれます。地底に向かって無限に堀り進められる巨大な穴、その壁面にびっしりと穿たれた横穴式寝床、何が起きてもなかったことになり、国土と一体化して輪廻を重ねる労働者たち。そして幻視される国体の姿。異様な迫力に飲み込まれそうになります。

 というわけで、これまでの作品に見られた疑似家族や小規模共同体といったテーマからいったん離れ、現実の政治問題のその奥に隠されているこの国の構造を、虚構の力を使ってあぶり出してやろう、という野心作ぞろいの短篇集です。個人的には、次から次へと奇怪なイメージが続く『ハイウェイ・スター』が好み。


[収録作]

『砂の惑星』
『ファンタジスタ』
『ハイウェイ・スター』


タグ:星野智幸
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