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『ELITE SYNCOPATIONS/THE JUDAS TREE/CONCERTO』(ケネス・マクミラン振付、英国ロイヤルバレエ) [映像(バレエ)]

 英国ロイヤルバレエ団によるケネス・マクミラン作品の最新舞台映像です。収録は2010年3月。

 『ロメオとジュリエット』、『マノン』、『マイヤリング(うたかたの恋)』といった長篇作品があまりにも有名であるため、マクミランといえば全幕ものドラマチックバレエ、まあジョン・ノイマイヤーの先輩みたいな人、という印象が強いのですが、実は小品や抽象バレエ作品もたくさん作っているのだそうです。

 というわけで、ケネス・マクミランが振り付けた3つの短篇作品を上演した最新の舞台映像を観てみました。

 まず最初の"ELITE SYNCOPATIONS"は、色っぽい(という設定なのでしょうが、良くいって現代美術風、ありていにいえば発狂した)素敵なコスチュームに身を包んだダンサーたちがキャバレー風に踊る作品。昨年、来日公演された『マイヤリング(うたかたの恋)』でも酒場のダンスシーンが印象的でしたが、あんな感じ。

 四の五の言わずに楽しめる娯楽作品で、にぎやかで楽しいダンス、目を見張るようなアクロバティックなダンス、ギャグ満載の愉快なダンス、などが次から次へと披露されます。クラシックバレエの定型的な動きをパロディ化してからかったりするのも、いかにもマクミランらしくて可笑しい。

 次の"THE JUDAS TREE"(ジューダス・ツリー)はマクミランの遺作だそうで、衝撃的な作品です。自動車解体工場にいる男性労働者たちのところに一人の若い女がやってきたことから、男たちの性欲やら独占欲やら暴力衝動やらがエスカレート。たちまち巻き起こるいさかい、乱闘、殺人、レイプ、自殺。何でもありの舞台。タイトルが暗示する通り、イエスの処刑、ユダによる裏切りと自害、といった風景が重なってきます。激しい暴力表現が多いので、上品なバレエしか観たくない方は要注意。

 この作品、以前にイレク・ムハメドフが主演した舞台映像を観たことがあるのですが、そこでは狂気としか思えない強烈な暴力衝動が吹き荒れていて、ぞっとするような恐ろしい暗い舞台になっていたのですが、今回主役を踊っているのはカルロス・アコスタ。やっぱり健全で爽やかな(ああ、イキオイで色々とやらかしちゃったねえ、まあ若いしたまってたし仕方ないよね、みたいな)印象を受けます。

 最後の"CONCERTO"は、ショスタコーヴィチの楽曲を使った抽象バレエ。美しい作品です。

 個人的には、第一楽章の主演が崔由姫(Yuhui Choe、チェ・ユヒ/チェ・ユフィ)さんというだけで大満足。高度なテクニックに支えられた輪郭のくっきりした、しかし何とも優雅で気品にあふれる彼女のダンス。ちょっとした仕種とかもうこれがカワイイんですわ。

 しかもパートナーは、NHKでも放映され大いに話題となった昨年の吉田都さん引退公演『ロメオとジュリエット』で吉田都さんとパートナーを組んでいたスティーヴン・マックレー。スケールの大きな、気持ちの良いダンスを堂々と披露してくれます。丁寧なサポートぶりにも好感。何にせよ、崔由姫/スティーヴン・マックレーの共演を見逃してはいけません。第三楽章にも何度か登場してくれます。嬉しいったら。

 小林ひかるさんも出演していましたが、崔由姫さんの背後で踊る少人数群舞の一人。何だか差をつけられているような感じでちょっと悲しいかも。なお、群舞では蔵健太さんもきっちり踊っていました。

 というわけで、崔由姫さんの踊りを堪能するための、じゃなくて、キャバレーの出し物、フィルム・ノワール風、抽象バレエ、という全く異なった傾向の三作品を通してマクミラン作品の奥深さと幅広さを再確認できる映像です。

 マクミラン版『ロメオとジュリエット』が気に入って他のマクミラン作品にも興味がわいてきたという方にはもちろんのこと、むしろバレエといえば綺麗なチュチュを着たバレリーナが美しいお姫様や白鳥を踊るというイメージしかない方にぜひ観てほしい一枚です。


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