SSブログ

『SFマガジン2011年3月号 2010年度・英米SF受賞作特集』 [読書(SF)]

 SFマガジンの2011年3月号は「2010年度・英米SF受賞作特集」ということで、新作四篇を掲載してくれました。

 まずはヒューゴー賞ノヴェレット部門を受賞した、『島』( ピーター・ワッツ)。恒星から恒星へと亜光速で航行し、ひたすらワープゲイトを設置して回る宇宙船と、超生命体とのファーストコンタクトを扱った作品です。

 前方からシグナルを送ってきている相手は、どうやら恒星を取り巻いている極薄の生態圏に棲息しているらしく、いわば「生きているダイソンスフィア」(あるいはダイソンスフィアなみのバイオスフィア)という驚くべき存在。その狙いは果たして何なのか。やがて宇宙船の進路がその相手との正面衝突コースにあることが判明するが、船を統括する知性体は軌道変更を認めようとしない。

 設定の魅力と、ラストのひとひねりが印象的な作品です。エイリアンとのコンタクトを前に船内政治(というか学内政治)闘争に明け暮れていた『宇宙船ビーグル号の冒険』(ヴァン・ヴォークト)を思い出させてくれます。

 次はネヴュラ賞ショート・ストーリー部門を受賞した『孤船』(キジ・ジョンスン)。宇宙船の衝突事故により、未知のエイリアン種族と共にせまい小型救命艇に閉じ込められた女性が語り手となります。

 こちらもファーストコンタクトテーマですが、コンタクトの手段がひたすらセックスというのがものすごい。全身のあらゆる穴と突起を駆使して、何日も何週間も何年もただひたすら続くエイリアンとの性交また性交という、悪夢のような作品です。そうまでしても全く相互理解もコミュニケーションも成立しない、というのは人間の男女と大差ありませんけど。というかそれがテーマなのかも知れませんけど。

 続いて世界幻想文学対象短篇部門を受賞した『ペリカン・バー』(カレン・ジョイ・ファウラー)。15歳の誕生日の翌朝、両親によって強制的に寄宿学校に送りこまれた不良少女が主人公。

 その寄宿学校で行われていたのは、徹底的に反抗心を削り取り、人間性を叩き潰す、そんな「再教育」だった。獣のように扱われ、感情も意志も人間らしさも失ってゆく主人公。すがりつく希望さえなくした彼女は、やがて18歳になり「出所」することになったのだが・・・。

 児童虐待をテーマにした作品で、読んでいて重苦しい気持ちになります。私たちの社会は、つまるところ、この寄宿学校と本質的に同じことをしているのではないか、という疑問が残るところがいい。

 最後は、シオドア・スタージョン記念賞を受賞した『ヒロシマをめざしてのそのそと 〈前篇〉』(ジェイムズ・モロウ)です。分割掲載ということで、今号は前篇のみ。

 第二次世界大戦末期、ハリウッドで活躍していたモンスター俳優が語り手。あるとき、連邦捜査官二人組が撮影所にやってきて、彼を海軍の極秘任務に徴用すると通告する。連れてゆかれた軍の秘密基地で彼が見せられたのは、二足歩行の巨大イグアナ怪獣だった。

--------
「焼き尽くす?」わたしはいった。「彼らは火を吐くんですか?」

「火を吐くに決まっているだろう」バーザックがいった。「納税者の五億ドルをついやしたのはなんのためだと思っているんだ?」

「つぎは空を飛ぶとかいいだしそうですね」

「それも検討してみたのだ」ペレグリーノ博士がいった。
--------
(p.253より)

 というわけで、五億ドルを費やして開発された巨大イグアナ怪獣を本土に上陸させ都市を二つばかり壊滅させ民間人を無差別虐殺して日本を降伏に追い込む、という極悪非道な作戦を回避するために、主人公はイグアナ怪獣の着ぐるみを装着してのそのそと歩くことになるのだった。果たして主人公の努力は実るのか。そして大日本帝国の命運やいかに。

 古き良きハリウッドらしさあふれるバカ話。ユーモアあふれる語り口は、シェクリィとかブラウンとか、ああいう作家たちの懐かしい短篇を彷彿とさせます。あちこちに散りばめられた40年代ハリウッド製モンスター映画に関するうんちくも微笑ましく、はたしてこの先どう展開するのか気になってしかたありません。


[掲載作品]

『島』( ピーター・ワッツ)
『孤船』(キジ・ジョンスン)
『ペリカン・バー』(カレン・ジョイ・ファウラー)
『ヒロシマをめざしてのそのそと 〈前篇〉』(ジェイムズ・モロウ)


タグ:SFマガジン
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0