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『快適生活研究』(金井美恵子) [読書(小説・詩)]

 金井美恵子さんの代表作の一つ「目白四部作」における主な登場人物たちが再登場するため、しばしば「目白シリーズ」と呼ばれる作品です。単行本(朝日新聞社)出版は2006年10月。

 連作短篇の形をとった長篇です。前半を読むと「目白四部作」とは何の関連もなさそうに思えるので、これがいわゆる「目白シリーズ」と呼ばれるのはどういうわけだろう、と疑問に思うのですが、後半になれば理由が分かる仕掛けになっていますのでご安心を。

 まず前半、新しい登場人物たちの日常のあれこれが書かれます。『文章教室』と同じく「いかにも陳腐で素人くさいダメな文章」が引用として散りばめられ、強い印象を残します。

 例えば、ある建築家が発行している(コピーして知り合いに送りつけている)身辺雑記の小冊子とか。お礼にあなたのこと今度ぼくのエッセイで取り上げてあげますよ、とか笑顔で言われたりして。

 「自己満足と自己肯定の幸福感に満ちた文章で書かれていて、書いてあることは、たしかに事実に違いないのだが、何かこう神経を逆撫でして不快に軋む違和感があって、まったく違う、と思うのだった」(単行本p.241)

 しかし、何といっても強烈なのは、作中に登場する手紙好きおばさんでしょう。彼女が書いた長文の手紙がそのまま作中作として(何通も)掲載されているのですが、言葉づかいこそ丁寧ながら、その回りくどさ、無神経さ、あつかましさ、読んでいてイライラしてきます。自分ではそのことに全く気付いておらず、むしろ自分は他人に気を使う方だ、と思っているところがまた。よくいるタイプですけど。

 後半に入って、『小春日和』およびその続編『彼女(たち)について私の知っている二、三の事柄』のヒロイン、桃子さんの語りが始まると、正直ほっとします。

 前作で三十歳になった桃子さんも、本作では、はや「四捨五入すれば四十」(単行本p.168)というお歳に。いまだ同じボロアパートの同じ部屋に住み、恋人はおらず、バイト先が潰れてからは仕事もしていません。さすがにこれではまずいのではないか、と読者も心配になります。

 そこに前半の登場人物たちが関わってきて、あれやこれやで母親が強引に地元の就職先を決めてしまい、さあいよいよ引っ越しか、飼い猫のトラはどうする、という展開に。

 というわけで、独立した短篇集として読める一冊ですが、やはり「目白四部作」および続編『彼女(たち)について私が知っている二、三の事柄』を読んでから手にした方が楽しめるでしょう。

 最後の方では、例の文芸評論家をはじめとして『文章教室』や『道化師の恋』の登場人物たちとの再会が待っており、まるで同窓会のような懐かしい気持ちになりました。


タグ:金井美恵子
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