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『厄介な翻訳語  科学用語の迷宮をさまよう』(垂水雄二) [読書(教養)]

 様々な科学書を翻訳してくれている垂水雄二さんが、生物学用語を中心とした誤訳の数々について語った話題作『悩ましい翻訳語 -科学用語の由来と誤訳』の続編。単行本出版(八坂書房)は2010年9月です。

 居酒屋のメニューにある「子持ちシシャモ」は、実はシシャモではなくてキャベリン(カラフトシシャモ)と呼ばれる別の魚である。"animal kingdom"は「動物王国」ではなくて分類学上の「動物界」のこと。"significant figure"は「重要人物」ではなく「有効数字」。

 自然科学の本に"wild goose"とあれば、「野生のガチョウ」ではなく「ハイイロガン」のことだと思って間違いない。"sea hare"は「ウミウサギ」ではなく「アメフラシ」である。ニンフ(nymph)というと妖精だが、昆虫の本では「不完全変態をする昆虫の幼虫」を指す。

 さらには、"horse fly"は「ウマバエ」ではなく「アブ」のこと。逆にウマバエといえば"botfly"だが、この語はウマバエだけでなくヒツジバエも指す。"cow elephent"が「ウシゾウ」ではなく「雌ゾウ」という意味になるのはなぜか。"worm"という語が出てくると翻訳家が頭を抱える理由。"wasp"と"bee"の区別がやっかいであるわけ。

 などなど。前作に引き続き、「誤訳」をマクラに科学用語を翻訳するときの難しさ、奥深さに関するうんちくが次々と語られます。実に面白い。

 後半、ネタが尽きてきた観もあり、必ずしも科学用語とはいえない語も取り上げられますが、それでも面白さは相変わらず。"cheesecake"が「チーズケーキ」ではなく「女性の脚線美」を指すのはなぜか。"detective"は「刑事」か「探偵」か。

 著者自身、"desert island"を「砂漠の島」と誤訳してしまったことがあるそうで(正しくは「無人島」)、うっかりというのは恐ろしい。私のように注意力散漫な人間は、たとえ語学力があったとしても、翻訳家にはなれそうもありません。

 というわけで、前作が気に入った方なら問題なく楽しめるでしょう。生物の名前の背後にある文化的、歴史的なうんちくという話題に興味がある方、そして科学論文の翻訳をしている方は、前作と合わせて通読することをお勧めします。もちろん単なる雑学本として読んでも大いに楽しめます。


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