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『ダンス・バイブル -コンテンポラリー・ダンス誕生の秘密を探る』(乗越たかお) [読書(教養)]

 ヤサぐれ舞踊評論家、乗越たかお氏のダンス講義が書籍になりました。コンテンポラリーダンス誕生に至るまでの100年の歴史を誰にでも分かるように解説してくれる、20世紀ダンス史の教科書。単行本(河出書房新社)出版は2010年12月です。

 いきなり個人的な話で恐縮ですが、『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイド』(乗越たかお)を読んで、何やら世の中にはコンテンポラリーダンスなるスゲエものがあるらしい、チケットを買うだけで誰でも観ることが出来るそうだ、観なければ人生大損なんだって、というわけでコーフンしながら劇場に駆けつけてから、はや数年。

 何だかよく分からないけど確かにスゲエような気がした。とりあえず別の公演も観ればもっとよく分かるようになるかも知れない。やっぱり分からなかったけどますますスゲエような気がする。というかマジ感動した。次の公演を観ればきっと分かるに違いない。これを繰り返しているばかりで、今に至るも「コンテンポラリーダンスって何?」、「どこがどうスゲエの?」という疑問には答を出せないままです。

 同じように「コンテンポラリーダンスというものが分かったような気がしない。釈然としない」とお悩みの皆さん、ついにバイブルが出ました。モダンダンスの台頭からコンテンポラリーダンスの誕生まで、20世紀のダンスの歴史を分かりやすく教えてくれる本です。

 全体は三つの章から構成されています。

 まず「第一章 ダンスを「歴史」で考える」では、全体の流れをざっとまとめてから、欧米を中心とした20世紀ダンス史を詳しく教えてくれます。ダンスの発展、社会や文化など外部環境との相互作用、キーパーソンの業績紹介など、多面的で複雑な歴史を分かりやすく解きほぐしてゆく手際はお見事。随所に登場するユーモアあふれる鋭いツッコミに笑いつつ、すらすらと読み進めることが出来ます。

 続く「第二章 ニッポンの身体、ニッポンのダンス」は、前章が西洋史なら、今度は日本史。バレエの上陸と発展、社交ダンス、タップダンス、パントマイム、モダンダンス、そして「舞踏」の登場。戦前・戦後の日本人がどのように欧米のダンスをとり入れ、独自に発展させていったのかが理解できます。最後は日本舞踊と西欧ダンスを比較しつつ、ニッポン人にとってのダンス、というテーマについて深く考えてゆきます。

 個人的にはこの第二章に最も感銘を受けました。何しろ知らないことばかりで、ページをめくるごとに目から鱗がぼろぼろ落ちる思いが。

 最後の「第三章 新しくダンスが生まれいずるために」では、日本(および欧州)のダンス業界の現状と問題点を明らかにします。前著『どうせダンスなんか観ないんだろ!? -激録コンテンポラリー・ダンス』の要約版というおもむきで、ダンサーが使い捨て消費財にされている日本社会、内向き志向で海外に出て行こうとしないダンサー、ダンスを育てようという志のない業界など、次々と喝を入れまくり。

 そのイキオイで「あとがき」に突入。我が物顔で「日本のダンスはもうダメ」みたいなことをいう輩は、「普通に殴り飛ばしながら日々を過ごしてゆきたい」(単行本p.271)と吼えます。読んでいて腹の底に力がたまってくる。

 というわけで、ありそうでなかった、モダンダンスからコンテンポラリーダンスまで、ここ100年くらいのダンスの歴史を、予備知識のない読者にざっと分かりやすく紹介してくれる本が、ついに登場しました。しかも読み物として非常に面白い。最後は吹き出す熱意にあてられ、興奮して眠れなくなる。今すぐダンスを観たくなる。そんな一冊です。ダンス、特にしばしば“難解”と言われる「コンテンポラリーダンス」をもっとよく分かりたい、という方の必読書でしょう。熱烈推薦。

    アマゾンでも購入できます
    http://www.amazon.co.jp/dp/4309272290/


タグ:乗越たかお
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