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『奇跡の生還へ導く人 極限状況の「サードマン現象」』(ジョン・ガイガー) [読書(オカルト)]

 高山で遭難した人々、南極大陸を踏破した人々、長い漂流の末に救助された人々。極限状況を生き延びた生存者が一様に語る<存在>がある。あそこにいたのは自分たちだけではなかった。不可解な人物がすぐそばにいて、我々と行動を共にしていた、と。この不思議な人物はいったい誰あるいは何なのか。その謎を追うノンフィクションです。単行本(新潮社)出版は2010年9月。

「誰もが衝撃的な出来事から逃げのびたとき、すぐそばに仲間や救済者、あるいは「強大な人間のような」存在があったという酷似した話をする。この<存在>は、守られ導かれているという安心感や希望をもたらし、普通に考えれば誰もいないはずなのだが、自分は一人ではなく、そばに誰かがいると確信させる」

「彼らは口をそろえて、重大な局面で正体不明の味方があらわれ、きわめて緊迫した状況を克服する力を与えてくれたと話す。この現象には名前がある。「サードマン現象」というものだ」(単行本p.25)

 本書には、この「サードマン現象」の報告を含む様々な事例が取り上げられています。その量はまさに圧倒的。911テロの生還者から、ミール宇宙基地で被災した宇宙飛行士まで。アーネスト・シャクルトンの極地探検から、チャールズ・リンドバーグの大西洋横断単独無着陸飛行まで。極地探検家、登山家、単独航海家、海難事故生還者、パイロットなど、それぞれ生死の境目ぎりぎりに追い詰められ「サードマン現象」に助けられた事例が次から次へと登場するのです。

 それがまた単なる事例報告にとどまらず、それこそ冒険小説のようにドラマチックに書かれているので、読んでいてどきどきしてきます。雪崩に押し流され重傷をおった上に登山道具を失い、行く手を踏破不能な氷壁にはばまれ、何度も滑落して出発点に叩きつけられながら、それでもなお立ち上がる。もはや意志の力だの不屈だのといった言葉で軽々しく言い表すことが出来ない、畏怖の念を引き起こすような驚くべきエピソードの数々。読んでいて、人間とはこれほどまでにしぶとい存在なのかと感嘆させられます。

 本書における大半のページは上のような事例で占められているのですが、各章の終わりで「サードマン現象」を説明しようとする仮説を一つ一つ取り上げて紹介してくれます。それは守護天使に他ならないという考え。限度を越えたストレスにさらされたせいで生ずる幻覚だという説。脳の統合機能が弱まり、右脳の判断を左脳が「他人」だと認識するという説。感覚情報の統合が阻害され、自分自身の身体を「他人」だと感じるという説。

 本書では、「サードマン」現象の原因を特にこれだとは断定せず、読者の判断に任せています。ただし著者は、守護天使など超自然的なものだという考えは却下して、あくまで生理的あるいは脳神経的な現象であり、おそらくは極限状況を生き延びてきた人類が進化的に獲得した防衛メカニズムだろうと考えているようです。

 最初は「サードマン現象」の謎めいた魅力にひかれて読み始めたのですが、次第にそれは大したことじゃないような気になってきました。生き延びようとする人間の意志の方がよほど奇跡だし超自然的、そんな風に感じられたのです。

 というわけで、オカルト本だと思って読むと期待はずれになります。「奇跡の生還」事例集にして、優れた冒険ノンフィクション短篇集、というべきでしょう。いないはずの同行者が心の支えとなり、ついに苦難を乗り越え奇跡を起こした人々の実話はどれも感動的で、読み進むにつれて勇気が湧いてくる一冊です。


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