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『SFマガジン2010年10月号 ハヤカワ文庫SF創刊40周年記念特集 Part.I』 [読書(SF)]

 SFマガジンの2010年10月号は、J・P・ホーガン追悼特集号、ではなくて、創刊40周年を迎えたハヤカワ文庫SFの特集号その1ということに。ハヤカワ文庫SF完全リスト(上)を掲載した上に、代表的人気作家の古典四篇を再録してくれました。

 まずは『夜来たる』(アイザック・アシモフ)。アシモフの出世作で、邦題よりもむしろ原題の『ナイトフォール』の方が有名な気もしますが、いずれにせよオールドSFファンで知らない人はいないであろう名作です。

 ある天文学的異変により引き起こされる文明崩壊を扱った作品ですが、再読してみると、子供の頃にどきどきさせられた「迫り来る異変のサスペンス」よりも、むしろカルト教団に象徴される「理性と科学の敗北」という苦々しい展開が印象的です。

 ところでクラークの出世作『太陽系最後の日』も、天文学的異変による絶滅の危機に直面した人類という設定なんですが、こちらは理性と科学の勝利と人類の未来を高らかに歌い上げるような内容になっており、見事なまでに対照的です。

 やはりユダヤ系ロシア人として生まれたアシモフと、英国のエリートであるクラークでは、人間の理性に対する信頼感が根本的なところで違っていたのかも知れません。

 『輪廻の蛇』(ロバート・A・ハインライン)は、これまた有名なタイムパラドックスものの名作。酒場で自分の人生について語り始めた男。聞いていたバーテンは、恨みのある相手に再会させてやろうと言い出す。実はバーテンの正体は航時局員(タイムパトロールみたいなもん)で、男をタイムトラベルさせる必要があるのだった。パラドックスの発生を防ぐために。

 子供の頃はいたく感心して紙にタイムチャートなど書いて「検証」してみたりしたのも良い思い出ですが、今になって読んでみると「だから何?」みたいな空しさを覚えます。アイデアの説明に終始している感が強く、正直言って小説としての出来には感心できません。アシモフ、クラークと比べると、今になってハインラインを再読するのはかなり苦しいのではないかと、個人的にはそう思います。

 『オメラスから歩み去る人々』(アーシュラ・K・ル・グィン)は、寓話的な設定を用いて、読者に対して倫理的ジレンマを真摯に問いかけてくる名作。

 ユートピアとしか思えない美しく幸福な都市オメラス。ただその幸福には、ある「ささいな」代償があり、そのことを全ての市民は承知している。ほぼ全ての人が受け入れているその代償。だが、ときにそれゆえオメラスから歩み去る人々がいるのだった。

 小説としての上手さは今回掲載された他の作品の比ではなく、美しい文章で夢のように幸福な風景を語りながら、私たちの現実の社会が抱えている(が考えないようにしている)矛盾に切り込んでくる手際は、今読んでもはっとさせられます。

 本作はその後も様々な作品に影響を与えてきました。そのテーマは今日もなおニリューアルされながら問いかけられ続けています。例えば『虐殺器官』(伊藤計劃)なんかもその一つでしょう。

 『鉢の底』(ジョン・ヴァーリイ)は、 長篇『へびつかい座ホットライン』を初めとする「八世界」シリーズに属する短篇です。

 「爆発宝石」と呼ばれる、金星でしか産出しない美しい宝石。その原石を求めて金星の荒野に向かった火星生まれの青年が、謎めいたガイド(もちろん美少女ですよ)と共に発見した宝石の正体とは。

 ヴァーリイの「八世界」シリーズといえば、あらゆる環境下で活動できるようになるフィールド(エネルギーバリアみたいなもん)などの空想テクノロジー、身体改変(性変換も含む)、クローニング(記憶再生も含む)など、様々なアイデアをぶち込んで異質化した社会風景を描く、というタイプの作品が揃っており、子供の頃はそのクールさにシビれたものですが、今になって再読すると、その「クールさ」それ自体の「ダサさ」に辟易する感がなきにしもあらずです。

 さて、特集とは別に、読み切りとして『日本怪談全集』(深堀骨)が掲載されています。深堀骨ですよ、深堀骨。『アマチャ・ズルチャ』の人。内容は、まあ何というか、密室殺人の謎に挑む怪奇探偵、犯人は幽霊に違いない(だって密室なんだもん)、じゃひとつ呼び出してみやしょう、ひゅーどろどろ、わあ出た、四谷怪談のお岩さんに、牡丹灯籠のお露さん、皿屋敷のお菊さんまで、ところであんた小幡小平次さんこんなとこで何してんの、うわ化け猫まで出たよこりゃ参ったね、さあ真犯霊は誰でしょう、みたいな。

 どこがSFやねん、と突っ込む前に脱力必至のくだらなさですが、でも深堀骨、五年ぶりの新作、というだけで気になる人は読みましょう。

[収録作]

『夜来たる』(アイザック・アシモフ)
『輪廻の蛇』(ロバート・A・ハインライン)
『オメラスから歩み去る人々』(アーシュラ・K・ル・グィン)
『鉢の底』(ジョン・ヴァーリイ)


タグ:SFマガジン
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