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『日常にひそむ数理曲線 DVD-Book』 [読書(サイエンス)]

 NHK教育『ピタゴラスイッチ』の看板コーナー「ピタゴラ装置」で有名な佐藤雅彦研究室が制作した科学ドキュメンタリーフィルムとその解説本のセット。出版は2010年7月です。

 普段、何気なく見ている光景にひそんでいる数理曲線(放物線、サイクロイド、サインカーブなど)を「視覚化」するという試みです。

 自転車のタイヤの一点に印を付けて走らせると、その点はサイクロイド曲線を描いて動いてゆく。トンカチ(かなづち)を投げると一見でたらめに暴れながら飛んでゆくが、その重心に印を付けてみると、重心の軌跡はきれいな放物線を描いている。パラボラアンテナの真上から小さなボールを同時にたくさん落としてやると、反射した全てのボールが空中の一点(焦点)でぶつかる。

 いずれも高校の物理と数学の教育を受けていれば「知っている」はずの、「当たり前」のことです。しかし、目の前で数理が形として現れる映像を見たときに感じる興奮は、「知識」だけからは得られません。

「あとがき」(佐藤雅彦)より
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「理」は現実に確かに潜んでいる。教科書の口絵ではなく、頭の知識ではなく、我々のいるこの現実に確かに存在している。
「理」が現れる瞬間、感じるのは知識の確認といったような生やさしいものではなく、「畏れ」である。
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 日の出から日の入りまで、東京タワーの影の先端が地表を動いてゆく曲線は、数学的には何と呼ばれる曲線か。その理由を説明せよ。

 グランドピアノの弦の端は、ある数理曲線に従って並んでいる。その曲線は何のグラフになっているか。その理由を説明せよ。

 高速道路のインターチェンジのカーブは全て同一の数理曲線を描いて曲がっている。その曲線の名前と特徴を示し、インターチェンジの形がこのカーブであることの利点を説明せよ。

 本書には、上記のような問題に対する回答が美しいカラー写真と共に解説されています。まずは自分で考えてみて、見つけた答を映像で確認すれば、大いなる満足を味わうことが出来ることでしょう。

 個人的に最も驚きと興奮を感じたトピックは、高速回転しているプロペラを携帯電話(iPhone)で撮影した一枚の写真(p.49)。何と、極端に引き延ばしたS字カーブの形になったプロペラが、しかも回転軸から離れた場所に、まるで心霊写真のように浮かんでいるのです。

 このプロペラの幽霊は、実はタンジェント曲線の形になっているのだそうです。なぜそうなるのか。解説を読んで、それが当然であること、「理」であること、それを理解したときの知的興奮ときたら。高校生のころ、三角関数を毛嫌いして申し訳ありませんでした。タンジェントは、そこにある。合掌。

 私たちの世界は、確かに数理的原理に従って動いている。いや、むしろ数理こそが実在であり、その一表現を私たちは現実と呼んでいるのだ。科学(そしてSF)がもたらすその認識を、驚きと共に体感できる映像と解説。特に夏休みの自由研究の宿題に悩んでいる中高生の皆さんにお勧めします。


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