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『小春日和(インディアン・サマー)』(金井美恵子) [読書(小説・詩)]

 金井美恵子さんの代表作の一つ「目白四部作」の第三作です。単行本出版は1988年11月。私が読んだ文庫版は1999年4月に出版されています。

 『タマや』と対をなす作品です。若い男性が一人称語り手「ぼく」となる『タマや』に対して、本作では若い女性が一人称語り手「あたし」となります。さらに登場人物の多くが共通しています。まあ、「四部作」なんだから別に不思議はありませんが。

 『タマや』で主人公たちがだらだらと無為に過ごす部屋の隣に住んでいた元気な二人の娘さん、そして小説家だというその叔母、彼女たちが『小春日和』の主役になります。時間的には、本作の方が『タマや』よりも過去。まだ娘さんたちがアパートに引っ越して二人暮らしを始める前、語り手「あたし」が叔母さんのマンションに居候して、親友と出会った頃の出来事が書かれています。

 何といっても語り手「あたし」とその親友のかっこよさにしびれる小説です。色々と生意気な小娘どもですが、その頭の良さとセンス、文学的教養、そして映画知識は半端ではなく、若い男なんてはなから馬鹿にしてるし、同級生たちから敬遠されても気にもとめません。その辛辣な毒舌は冴え渡り、思春期ウツも何のその、若さでぐいぐい乗り切ってゆく。

 「退屈なんだよな、若い男ってのは。そうねえ、あたしの知ってるかぎりじゃ、そういえるな、とあたしも言い、でも、おばさんのとこに来る男の編集者を見てると、おっさんも退屈だけどね、馬鹿みたいなことしか言わないよ、そのたんびにおばさんは不機嫌そうな顔して横向いてるし」(文庫版p.85)

 小説家の叔母さんを含め、主役三名はみんな金井美恵子さんそっくりだと思う読者がいても不思議ではありません。というかそう思いました。

 作中に、叔母さんが書いたエッセイや小説がところどころ差し込まれます。その内容は、もちろん作中の出来事そのものではないのですが、若い「あたし」の視点を通じて書かれたあれこれが、大人である叔母さんからはどう見えたのかを、読者が推測する手がかりとなっています。

 主役たちはそれぞれに悩んだり落ち込んだりもしますが、だいたい美味しいものを食べれば一気に回復。若さと心地よいセンスと楽観的な気分が横溢している作品で、読んでいて幸福な気持ちになってゆきます。若い男の生活を書いた『タマや』の登場人物たちの駄目っぷり、脱力感と比べて、この差は何なんでしょうかいったい。

 というわけで、男性読者が読んでもむろん楽しめますが、やはりここは若い女性にお勧めしておきたい、読めば元気が出る少女小説です。


タグ:金井美恵子
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