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『文章教室』(金井美恵子) [読書(小説・詩)]

 金井美恵子さんのエッセイに感激したので、今度は小説を読んでみました。代表作の一つ「目白四部作」の第一作です。単行本出版は1985年1 月。私が読んだ文庫版は1999年5月に出版されています。

 文章教室に通って『折々のおもい』なるノートをつけている一人の主婦を中心に、その父親と夫と娘、文章教室の講師である現役作家、その知り合いの文芸評論家、などなど多彩な登場人物たちが、それぞれ浮気やら不倫やら失恋やら痴話喧嘩やら、当人たちにとっては深刻でも他人から見ればみっともないことこの上ない恋愛模様を次々と繰り広げるという話。

 ほとんど全ての登場人物に対して作者の視線はよくても底意地悪く、やもすると冷笑的で、あちこちから皮肉と諧謔の響きが感じ取れます。恋愛小説を読むときに、感情移入してうっとりしたい、と思うような人には向いてないかも知れません。むしろ他人の滑稽な様を見てせせら笑うのが生きがいという読者に向いているような気もするのですが、そういう人が読むとまさに自分が馬鹿にされていることにうっかり気付いて腹を立てることになりかねません。

 内容もそうですが、形式がまた辛辣です。主人公である主婦が書いた“いかにも素人が名文だと感じるような古くさい定型的表現”で構成されたノートからの引用、実際に雑誌等に掲載された他の作家や評論家の文章からの引用、この二つの引用文が詰め込まれているのです。さながら引用文のコラージュというおもむき。

 たぶん発想そのものは「現代小説は引用に過ぎない」とか「もはやコラージュという手法でしか小説を書けない時代」みたいなことを言う評論家への当てつけだと思われるのですが、その引用された文章はそれぞれに見苦しいものばかり。というか、引用として切り出されることで、そのうっとうしさがあからさまにされています。

 そんな引用が印象では全体の半分近くを占め、ときには数ページに渡って数十個の引用文が続くといった箇所まであり、まるで駄目表現文例集。タイトルが文章読本(文章の書き方指南本)風という皮肉もあり、あちこちに喧嘩売ってますよねえ。

 「文庫本のためのあとがき」によると、当然ながら他の作家や文芸評論家さらには専業主婦の読者までもれなく憤激させ、編集長からは早く連載を終えるように言われ、作中の文芸評論家のモデルは私に違いないなどと言い出す人までいたそうですから、あっぱれです。

 普通に恋愛小説として読むことも出来ますし、文壇喧嘩売りまくり痛快風刺小説として楽しむことも出来る、ひょっとしたら文章読本として実用になるかも知れない(でもたぶんならない)、そういう作品。読後、とりあえず「目白四部作」は全て読むことに決めました。


タグ:金井美恵子
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