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『SFマガジン創刊50周年記念特大号 Part.II 日本SF篇<1>』 [読書(SF)]

 SFマガジン2010年2月号は「創刊50周年記念特大号 Part.II 日本SF篇」ということで、日本のSF作家たちの新作をごっそり掲載してくれました。昨年末の海外篇に引き続き、読み切り作品に絞って少しずつ読んでゆきます。

 まずは山田正紀さんの『フェイス・ゼロ』。文楽(人形浄瑠璃)の名人がロボット工学の専門家に依頼して製作してもらった“完全な無表情”というものが引き起こす惨劇という話。ロボットの表情をコントロールする研究を通じて、表情による無意識レベルのコミュニケーションが人間の情動に大きく影響していることが分かってきていますが、ここらの知見をネタにしたミステリタッチの作品です。

 語り手や職業に関する設定はいかにも山田正紀さんらしいのですが、いかんせん話の展開に無理が多い。いつもは得意のハッタリで押し切ってしまうのですが、今作ではどうも息切れしているように感じます。

 椎名誠さんの『問題食堂』は、田舎の定食屋で起きた些細な喧嘩を発端として、次から次へと飛躍してゆく話。懐かしき椎名さんの不思議ワールドですが、正直言って発想がまともというか、普通に妄想しますよね、こういうこと。むしろ冒頭の定食屋のシーンがいちばん面白かった。

 瀬名秀明さんの『ロボ』は、シートン動物記に登場する有名な狼王と、もちろんロボットをかけているのでしょう。バイオテクノロジーにより新たなコミュニケーション能力を獲得した動物たちの話ですが、擬人化を極力おさえて、寓話や象徴に陥らないように工夫しています。さほど面白い話だとは思えないのですが、その生真面目さには好感が持てます。

 上田早夕里さんの『マグネフィオ』は、事故による脳障害で意思疎通が不可能になった患者とコミュニケーションをとるために開発された新たなテクノロジーと、その応用による脳神経系の拡張をテーマとした作品。

 話の軸になる男女の心理の機微は、まあ、陳腐と言えるでしょう。むしろ医療技術の発展により大きく揺らぎつつある私たちの倫理感や世界観という部分にSFの醍醐味を感じます。なお、グレッグ・イーガンの『しあわせの理由』をかなり意識しているように思います。

 そして谷甲州さんの『ザナドゥ高地』。航空宇宙軍史の一遍で、最初の外惑星動乱終結後の小惑星タイタンを舞台にした作品です。密かに再軍備を進めている疑いがある基地に、抜き打ち検査に訪れた退役軍人の査察官が主人公。

 何しろ無骨で愛想のない作品ですが、主人公の心理を丹念に追いながら読み進めることで渋い味わいが出てきます。第二次外惑星動乱の時代へと続くであろうラストの余韻はいい感じ。連作化を予定しているとのことで、期待したいと思います。

 というわけで、まずは最初の数篇を掲載順に読んだだけでも、非常にバラエティに富んだテーマや作風を楽しめる特集号です。


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